2015年4月28日火曜日

アメもムチも使わない 子どもの学び続ける力とモチベーションを育む新しい学 習塾「はじまりの学校 a.school」(東京)

自主的に勉強をする子どもに育てるためにはどうすればいいか?

 

子育てに励むお母さん、お父さん、そして教育現場の先生方にとって、これは永遠のテーマだ。例えば、ゲームやマンガの購入を条件に子どもを釣ってみるが、思ったより効果や持続性がないことに失望する。また、そもそも「交換条件がなければ学ばないこの子が社会に出ても生き抜けるのか・・・?」という不安も残る。


それなら、やり方を変えて勉強に強制力を持ち込んでみることにする。宿題をやらないなら大好きなアニメ番組は禁止!というルールを設けてみた。これによって子どもは渋々勉強に取りかかるかもしれないが、学ぶ意欲は芽生えない。自ら学ぶという状態からはやはり程遠い。



学び続ける力と意欲を育む 新しい学びのアプローチをとる学習塾

東京都の文京区、メトロ丸ノ内線の本郷三丁目駅から徒歩3分。東京大学のすぐ側にa.school(エイスクール)はある。子どものやる気を育むヒントがここにあった。a.schoolを運営するのは、Boston Consulting Groupでコンサルタントを務めた後に起業した岩田拓真さん。今回は岩田さんに授業見学とインタビューをお願いし、学び続ける人を育てる教育手法について勉強させて頂いた。

 

この日見学したのは小学生対象の探究・創造学習コース(英数国理社)。a.schoolに入って、まず興味を持ったのはその空間だ。一般の塾のイメージは、生徒が縦横に並んだ座席に座り、講師が一人前で板書をするというものだが、どうやらa.schoolでは島型の座席で授業が行われるようだ。どんな学びの場がここから生まれるのだろう?



アインシュタインのメッセージがa.schoolの目指す学力を表しているようだ。


 

子どもの好奇心を刺激しつつ、学び方を習得する「探究型学習」

時間になり、授業が遂にスタートした。最初に行われたのは絵しりとりというワーク。制限時間5分の中で、子どもたちはしりとりの内容を絵で表現し、一番多く絵を描けた人が勝利するルールだ。写真の子(今回のしりとり勝者)は、足→鹿→菓子→式→木→黄身を描いている。式という発想がすごいな!

頭の準備体操が終わり、次に探究ワークという学習が始まった。今日のテーマは食べ物。生徒たちが食べ物について自ら問いを立て、その問いについてリサーチ(探究)した結果を発表していく。一人一人が立てた問いは下記の通り。正直、どれも答えられる自信がない・・・^^;

 

「なぜお菓子は生まれたのか?」(小5)

「食べ物はどれくらいゴミになってしまうのか?」(小5)

「なぜ肉を焼くと汁が出て、色が変わるのか?」(小5)

「なぜお菓子は生まれたのか?」という問いを立てた生徒の発表に注目してみよう。その子によれば、お菓子はパンの製造と関連しており、パンに果実を入れたものがお菓子の原点だった。また、唐菓子が伝わることによって、日本でお菓子作りが本格的に行われるようになったとのこと。



視野を広げる&思考を深める 子どもの状態に合わせて働きかける

てっきりお菓子の歴史について講師の岩田さんが講義をするのかと思ったが、授業は生徒たちの発表を中心に進んでいく。まるで子どもたちから授業を受けている感覚だ。お菓子に関する発表が終わったタイミングで、岩田さんが生徒たちにある提案をした。「お菓子にはどんな種類があるか、思いつく限り付箋に書き出してみよう!」

チョコレート、アイス、飴、ホップコーン・・・お菓子の名前がホワイトボードを埋めていく。インタビューでわかったのだが、このお菓子の種類を出し合うワークには意図があった。


岩田さん:「発表は良かったのですが、すこしお菓子のバリエーションが少ないと感じました。例えば、甘いお菓子と塩辛いお菓子があるように、お菓子にはバリエーションがあります。お菓子の種類によってルーツは異なり、そのルーツの違いに注目することで探究がさらに面白くなると思いました。だから、あのタイミングでもっと視野を広げるためのワークをあえて実施しました。」


さらに、視野を広げるワークに加えて、子どもの思考を深める働きかけも印象的だった。下記の写真は岩田さんが探究のまとめ方を生徒に提案している場面。

岩田さん:「お菓子の歴史を年代表にまとめてみたらどうだろう?」

岩田さん:「お菓子が広がったルートを世界地図に描いてみるのも面白いかもしれない。」

なんとなく理解している状態では、年代表や世界地図という形でアウトプットをすることは難しい。だからこそ、明確なアウトプットイメージを持つことで、子どもたちがテーマに対してさらにもう一歩踏み込んで考える効果が期待できる。



探究を面白くする授業の即興性

また、型にはまらない即興性もa.schoolの授業の特徴だと感じた。例えば、お菓子に関する発表で下記のようなやりとりがあった。

生徒:  そういえば、なぜおやつの時間が生まれたのかも調てきました!」
岩田さん:「お!それ面白い!なんで?なんで?」

生徒:     「労働者たちの休憩時間から始まったようです!」

岩田さん: 「へぇ~!ちなみに、いつの時代??」

この後おやつの時間の誕生秘話について会話が盛り上がっていく。最初に立てた問い「なぜお菓子は生まれたのか?」とおやつの時間の誕生秘話は一見関係が薄いように思われる。でも、その時どの子もおやつの時間が始まった理由に対して興味津々だった。

最初に立てた問いから子どもたちは新たな問いを派生させ、好奇心を満たしていく。通常カリキュラムや計画に沿って授業は進めるものだが、子どもたちの知りたい気持ちに火がついたら、好奇心が赴くままに授業の舵取りを委ねてみるのも面白い。


気づくと外は暗くなり、2時間の授業はあっという間に終わった。最後に生徒たちは本日の授業を振り返り、①学んだこと ②今後に生かしたいこと ③次回までの宿題の内容をシートに記入していく。子どもたちは見学を全く気にすることなく、学びに熱中していて素晴らしかった。今日は見学させてくれて本当にありがとう!

 

 

まとめ ポイントは学び方と内発的モチベーション

最後に、今回学んだことをまとめたい。自主的に学び続ける人を育てるためには、学び方とモチベーションの2つが欠かせない。どちらも教育業界でよく使われる言葉だが、a.schoolが提供する学び方とモチベーションの定義は明確だ。

a.schoolでは、問いを立てる力、探究を面白くする視野の広め方、考察に厚みを持たせる深い思考力、相手に理解してもらうためのコミュニケーション能力やアウトプットのノウハウ等が身につく。

これらの力を習得できれば、ジャンルに関わらず新しいことを吸収する学び方が確立されていく。例えば、今回の授業テーマである食べ物の探究を通じて身につけた視野の広め方と思考の深め方は、他の分野を学ぶ時にも応用できる。岩田さんの「この授業は子どもたちに研究者経験を積んでもらうようなものです。」という言葉が印象深かった。


一方で、学び方が身についても意欲がなければ、人はそもそも学ぼうとしない。岩田さんが授業で大切にするのは内発的モチベーションだ。

岩田さん:「提供したいのは、教室を出ても火が消えない内から溢れるモチベーションです。反対の外発的なモチベーションとはアメとムチです。つまり、理由付けがないと学ぼうとしないモチベーションのことです。これからの社会はますます複雑な問題が発生し、誰かに理由を与えられないと努力できない人間では太刀打ちできないと考えています。」

確かに、a.schoolの授業ではアメとムチは一切登場することなく、生徒たちが学習に没頭していた。きっと、子どもたちが自ら「なぜ?」という問いを設定したり、岩田さんが探究を面白くする質問や観点を提示したりすることに学びたい気持ちが生まれる要因があるのだろう。


知識ではなく、学び方とモチベーションが身につく新しいスタイルの学習塾。本記事の冒頭で提示した問い「自主的に勉強をする子どもに育てるためにはどうすればいいか?」に対する答えがこれからもa.schoolで生み出されていく。