▮創始者の原体験「国を根本的に変えてくれるリーダーを育てたい」
ISAKの代表理事を務めているのは小林りんさん。東京大学を卒業後、ベンチャー企業の経営や国際協力銀行等を経て、国際児童基金(ユニセフ)で働くことに。ユニセフの職員としてフィリピンに赴任した際に感じた限界がISAKのコンセプトに大きな影響を与えている。
フィリピンには住民登録もされていないストリートチルドレンが10万人ほどいると言われており、そんな子どもたちが時に売春や臓器売買の犠牲になるリスクがある。彼らに教育の支援を行い、社会に出てもらうことに意義を感じる一方で、小林さんは自分の活動に失望感も抱いていた。
支援した子どもが晴れて大学に行けたとしても、失業率が高いフィリピンでは仕事が見つかる可能性は低く、結局働く場所を国外に求めることが多い。優秀な人材ほど海外に出ていくので、国内の社会問題は解決されず、ストリートチルドレンを生み出す負のスパイラルを断てないという。
この時に小林さんが痛感したのは、国を根本的に変えてくれるリーダーの不足という問題であり、リーダー層の育成が成功しない限り、国の本質的な課題は解決できないと考えた。この問題意識はやがてISAKの「社会に変革を起こすリーダーの育成」という教育方針につながっていく。
▮何が“日本初”なのか?
冒頭で書いたようにISAKは日本初のインターナショナルスクールである。その秘密は全寮制にある。3年間、生徒たちは異なる文化、宗教、価値観を持ったクラスメートと生活を共にする。第一期生の出身地を見ると、タジキスタン、ソマリア、ネパール、タイ、マレーシア、ベトナム、フィリピン、オーストラリア、中国、台湾、スペイン、アメリカ、日本とあり、多様性に富んでいる。また、2015年には第二期生が各国から入学することになっており、学校内の多様性はさらに豊かになっていく。
生徒たちの寮
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ISAKでは、IB(バカロレア)やIDEOのデザイン・シンキングに基づいた教育カリキュラムも提供しているが、個人的には「異文化に対する偏見がまだ少ない時期に、多様性を受容する力と、多様性の中で個性を発揮する力」を育めることが最も価値ある教育経験だと思う。
例えば、クラスメートの中には、出身村が全力で支援したからこそ進学ができた生徒がいる。村中の人々が学費の資金を集め、村の貧困問題を解決するリーダーになってほしいという想いを託してISAKに送り出すのだ。ちなみに、その子は食べることもままならない貧しい地域で育ったため、胃が小さくなっている。その結果、たくさんの量は食べきれず、学校の給食を残してしまうこともあるそうだ。
食堂に貼ってあった生徒たちのプロフィール
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そんな多様な経験をした仲間とほぼ24時間一緒に生活をするわけだから、生活のリズムや寮のルールをめぐって衝突が起きることは当たり前だ。異なる他者と暮らす以上、最初から分かり合えないのは当然であり、相手の言い分を聞きつつ、自分の考えをわかりやすく伝えていく姿勢と能力がなければ生活は成り立たない。
多様性の豊かな社会が理想とされる中、ISAKの生徒たちは共存の難しさをリアルに体感し、その中で生きる術を磨いている。異質の他者と共存する方法を3年間も試行錯誤できる高校は日本でISAKしかない。だからこそ、価値があると思う。将来、彼らが創造する地球社会が楽しみだ。
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