2016年4月20日水曜日

【教育私論③】PISAに基づく教育改革は子どもたちをどこに導くか?



前回の投稿に続き、OECD(経済協力開発機構)が2000年から3年ごとに実施しているPISA(国際学力到達度調査)について書きます。PISAとは、義務教育修了段階の15歳児を対象に数学的リテラシー、科学的リテラシー、読解力の3分野における知識の応用力を測定するテストです。



そこで得られる点数と国際順位は大きな影響力を持っており、各国の政府が将来の教育政策に反映させるほどです。例えば、PISAにおける順位の後退は日本のゆとり教育を終わらせ、学校教育の学習内容と授業時間を再び増やす要因になりました。では、PISAに基づく教育政策は本当に子どもたちの未来を明るく照らしてくれるのでしょうか?



PISA2012のアンケート調査によると、数学に対する日本の子どもたちの自己信念は最低レベルでした。自己信念とは5つの要素で構成されており、それらをPISA2012に参加した65の国と地域における日本の順位と一緒に以下にまとめました。(参照:PISA2012調査分析資料集)ちなみに、PISA2012の数学的リテラシーにおける日本の順位は65位中7位でした。



①興味・関心・楽しみ→60

②動機付け(将来役に立つと思うかどうか)→64

③自己効力感(具体的な問題を見た後、それを解けると思うかどうか)→63

④自己概念(わかる、できるという自信があるかどうか)→65

⑤不安(学習に対してネガティブな感情を持っているかどうか)→12位(順位が高いほど不安が大きい)



上記の結果が示すように、日本の子どもたちは数学に対して前向きな姿勢を持てていないことがわかります。しかし、これまでの日本の教育政策に影響を与えてきたのはPISAのテスト結果であり、子どもたちの学習に対する自己信念はそこまで重視されてきませんでした。テストの問題は解けるけれども、学習に対する興味、意欲、自信はあまりない。そんな子どもたちを私たちはこれからも増やし続けて良いのでしょうか?



次にお見せするのは、オレゴン大学のYong Zhao教授が2012年に発表した研究成果です。Yong Zhao教授はPISA2009における各国の点数とPerceived Entrepreneurial Capability(起業に必要な能力を持っているという自信)の関係について調査しました。(参照:TestScores vs. Entrepreneurship: PISA, TIMSS, and Confidence


Source: Education in the Age of Globalization, Yong Zhao


上の図からわかるように、PISAの成績とPerceived Entrepreneurial Capabilityには比例関係が見られません。反対に、PISAでトップクラスの成績を収めているシンガポール、韓国、台湾、日本は新しいビジネスを始めることに対して自信を持っている国民の割合が著しく低い状態でした。



日本は課題先進国と呼ばれるほど多くの深刻な社会問題に直面しているため、問題解決にチャレンジできる人材がますます重要になっています。したがって、子どもたちの起業家精神もPISA型学力と同じくらい大切に育んでいくべきではないでしょうか?PISAのテスト結果を重視するあまり、私たちは大切なものを置き去りにしているのかもしれません。

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